浅原ナオト・幻冬舎文庫・2023年
バスケ部のエースである塚森裕太が、同性愛者であることをSNS上でカミングアウトするという内容の小説です。
全5章で、章ごとに語り手が変わります。
このブログでは、BLまたは百合要素のある作品は他とカテゴリを分けています。
興味のある方が探しやすくするためでもありますが、苦手な方への対策のためでもあります。
同性愛も認めるべきという意見を持つ方も今は結構いますが、一方で、抵抗を感じている方もいます。
この小説の第4章は、塚森がカミングアウトしたことで苦手意識を持つようになってしまった後輩、武井進が主人公です。
その経緯、特に、彼が塚森以外の同性愛者と関わることになる238ページを読むと、無理もないように感じました。
というのも、私自身も小学生の頃、「男子は全員嫌い」と考えていた時期があったからです。当時は「泣いたら面白いから」という理由で、同じクラスの男子から、「触れると不幸になる」と言われていました(途中から、「泣いたら面倒だから先生に気付かれないようにする」に変わりましたが)。
後からよく考えると男子「全員」ではなかったものの、その頃は「全員」だと思っていました。
状況は異なりますが、武井の塚森に対する意識も、これに近しいような気がしました。
結果として、武井は塚森にとんでもない発言をします。それを聞いた塚森が受けた影響は、主に第5章で語られます。
こちらにも、共感できる部分がありました。私の言われた「触れると不幸になる」という言葉には、根拠はありません。ただ、嘘であると証明する方法もわからないから、ずっと覚えています。このことを、今自分と接点のある人たちに教えたことはありません。
だから、そのようなことを知らない誰かに後ろから肩を叩かれたときに拒否反応が出てきて「触ってこないで」と心の中で思ったり、周囲で悪い出来事が起こったときに「もしかしたら自分のせいかもしれない」という発想になったりすることが時々あります。
塚森も同様に、武井の発言によって、日常生活やバスケの試合に支障をきたしていきます。克服できるかどうかは終盤まで明かされないため、先が気になりました。
また、塚森の場合は、武井以外の登場人物たちの言動からも影響を受けます。
第1章から第3章までにも書かれていますが、彼は周囲から、バスケ部のエースで優等生で格好良い人気者というプラスイメージを持たれています。
それが崩れないように、相手から求められているふるまいをする大変さや、本来の塚森自身が持つ性格との差異による葛藤が描写される第5章は、第4章までとは印象が変わるものでした。
本編だけでなく、解説(特に418ページ)も興味深かったです。
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